『時空を超えた、読み応えのある小説』
天明童女、引き込まれるようにして、一気に読んだ。リズム感あふれる文体もさることながら、構成の見事さに圧倒された。
場所は新百合ヶ丘、小田急線の沿線、そこは近年、住宅地として開発されたところである。駅周辺は買い物客であふれている。
ところがその土地には、隠された歴史がある。天明の飢饉と呼ばれた事件があった。
その歴史を、作者は、見事に蘇らせてみせる。それはまるで、作者がその場所の地霊に、とり憑かれたごとく迫力でもって、貧苦や飢えに苦しむ人々を描き出す。
この本は、この時代を描くだけで充分だったはずだ。
だが才能ある作者は、それを現代とからめて、遠い時代の人々の情念を、今に蘇らせ、幼い命にそれを吹き込んでいく。
真に恐ろしい小説である。そして、今、私たちの情念は、どのような形で、未来に蘇るのであろうか。
久しぶりに、小説の醍醐味といったものを味い、満足感を覚えながら、本を閉じた。